写真 © 淺川敏
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2002

周辺の街路空間を建物内部に引き込んだ商業施設。

大名は福岡市の商業の中心ながら戦前の木造建築もわずかに残る、小さな店が立ち並ぶエリアである。この地区に江戸時代から残る城下町特有の道は、十字に交わらずクランクしたりT字に交わったりして、また幅員も狭い。そういう道からさらに建物の間に路地が伸び、その奥にひっそりと店があったりするので、迷路をめぐるような、歩いて楽しめるスケールの町として人気が高い。 この建物の敷地はその大名の一角にある。間口が狭くて奥に長く、6mの狭い前面道路以外の三方は8階建ての建物に囲まれている。そこにレストランやショップなどを想定した商業建築を建てることになった。問題は、いかにして低層階だけでなく上の階へも、また道路側だけでなく奥の空間へも人々を導くかであった。そこで、この地区特有の道空間を建物内に引き込み、延長していく手法を考えた。前面道路から奥へとつづく2層分の階段を上っていくと奥のショップが見え始める。そこから続く半屋外の共用空間は、回遊性を持ちながら路地として建物の中を立体的に巡っている。そして人々はそこを、自由に歩きまわることができる。

また奥の空間に光や風を送るため、建物の中央に吹き抜けが設置された。路地はその吹き抜けの周りを巡り、また吹き抜けの底にあたる部分は共用のテラスになっている。その吹き抜けと路地の存在によって、各ショップがお互いに見えるので相乗効果を上げている。この吹き抜けは、町屋のありかたにも共通している。細長い家屋が隙間無く隣り合う町屋では、奥庭や坪庭を配して光や風を取り入れたのであったが、その手法をより立体的なものにしたのがこの計画である。

隣の建物との関係においても、町屋のような手法を使うことになった。かつてよしずと呼ばれた葦の日除けが隣との緩やかなプライバシーを与えたように、この建物でも隣の建物に対して壁をつくるのではなく、アルミパンチングメタルを二重に重ね、視覚的にも閉じてしまわない、空気の流れを遮らないような柔らかい境界をつくった。それにより空間が敷地内に閉じるのではなく、周辺の建物ともゆるやかな関係を形成している。 正面のガラスのファサードは、店舗内を良く見せるための透明性を失わずに、かつ建物全体の顔をつくることが重要であった。200mm角のH型鋼が一筆書きを描きつつ3つの面を縦横に走るデザインは、このカーテンウォールの製作を非常に難しくした。しかし、さらに細かく分割するフレームと共に、建物全体を覆うネットのような存在として、ファサードを個性的にしている。

建物のなかにまちが広がっているような、道が伸長していくような空間のおかげで、上層階や奥の空間でもショップが成り立っている。

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