写真 © Hiroshi Ueda
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風の街みやびら

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場所
広島県庄原市, 日本
2014

この建物は,広島県庄原市に建つ高齢者福祉施設である.利用者の家族や近隣の方が気軽に立ち寄れる,木の温かみがある家が理想という施主の要望から,地域に開放された遊歩道や路地,庭を設けて,木造平屋の特別養護老人ホームとショートステイ(以下,特養)が5棟,デイサービスが2棟,本部棟が1棟という分棟配置にしている.その際に,施設間を移動する職員の負担を減らすため,本部棟を中央に配置し,食事などは北側道路から車で搬出入できるよう配慮した.
最も大きな面積を占める特養は,小さなリビング(茶の間)を囲む3,4室の個室からなる住宅スケールのセット「コ・ユニット」を,3つ組み合わせて10人1ユニットにしている.さらに,夜間介護を考慮して職員コーナーがある大きなリビング(居間)と水回りで繋がれた2ユニットが各棟の構成単位となる.個室は4畳半の寝室と,3畳の多目的室に分けて,この地域の農村民家を参照し,寝室を「奥の間」,多目的室を「あだの間」と名付けた.ベッド回りの生活実態を精査して,従来の個室面積からあだの間を捻出することで,奥の間では介護のプライベート性を高める一方,あだの間では自発的な生活を営み,茶の間や外部と繋がるような,個々の状態に応じた生活の多様性を持たせた.また,個室の建具を開け放つと,コ・ユニットは多床室のような介護環境となる.繰り返し現れる家型は,ひとめで個室であることを認識させる効果もある.

家型の奥の間と,開放的なあだの間に包まれた建築は,訪れる地域の人からも,ここで暮らす人からも,小さな家が集まった町のように映る.あだの間は縁側,接客,家族室などさまざまな用途に使え,地域住民が気軽に立ち寄れる個室の玄関にもなる.ひとりひとりの生活風景が空間を彩るような,個に寄り添う介護をしたいという施主の新しい試みが,やがて普通の生活の場として周辺環境に溶け込み,ひとつの風景=町になっていくことを期待している.

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