写真 © Hiroyuki Hirai
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日本橋の家

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場所
大阪, 日本
1992

「日本橋の家」は大阪の下町、極小の敷地に建つ住宅である。敷地一杯の間口2.5m、奥行13mの建物の1階から3階までの階高は可能な限り低く抑え、逆に最上階は建物全体の約2/3を天井高6mのダイニング・ルームとし、残りの奥1/3をテラス、屋外空間としている。その結果この建物は間口の狭い敷地の奥行き方向と同時に、垂直方向にも延びてゆく空間を持つことになった。都市での生活を垂直方向に展開すること、そしてたった数㎡しかないテラスと、ダイニング・ルームを含めてもせいぜい30㎡に過ぎない空間ではあるが、最上階に地上の喧騒から隔絶されて浮遊する生活空間を持ち、しかもそれが自然に接したものであること、というのがこの住宅の主題であり、それは屋上庭園という形式を見直してみたい、という試行の結果でもあった。

もし近代建築が革命的なものであったとしたら、その理由の一つとして挙げられるのは屋根の廃棄ということだろう。本来建築にとっては不可欠の要素である屋根を持たないこと、これが屋上庭園の意味するものだとすれば屋上庭園という空間は一体我々に何をもたらしたのか、あるいはどんな意味があるのかということについて考えてみたいと、思っていた。

ル・コルビュジェのベイステギ邸。シャンゼリゼに面した建物の屋上に計画されたペントハウス。この住宅で特徴的なのは凱旋門がアイレベルにあるという視線の有り様と、それが本来地上にあるかのような屋外空間と共に、しかも空中に在るということである。言い換えれば、特権的な眼差しと特有の浮遊感を同時に持ち得ること、これが屋上庭園という近代が獲得した空間のみが持ちえる資質なのだろう。

「日本橋の家」のささやかなテラスとダイニング・ルームがそれに値するものかどうか、それはわからない。しかし我々の時代が獲得したものに対して無自覚でいることだけは避けたいと考えているのだ。

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