写真 © 岡本公二
写真 © 岡本公二

テルツェット

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2004

博多湾の一角「港」という町に完成した集合住宅。
SOHOにも適した高い天井を持つ伸び伸びとした空間から、港を一望できる。

福岡は博多湾を包み込む、古来、海と密接に結ばれた都市だが、ウォーターフロントが工業や港湾施設などに利用されてきたため、生活のなかで海を感じることの少ない都市でもあった。「港」という町は福岡船溜に面し、かつて造船所や倉庫、水産会社などが数多く並んだ地区で、その一角にこの建物はある。クライアントはこの地で造船業を営んでおり、福岡の商業の中心、天神からも程近いこのエリアのポテンシャルにかねてから関心があった。

一般には町名さえも知られておらず、ましてや住む場所とは思われていないこの生活感の無い地区に、賃貸の集合住宅をつくりたいという施主の要望にどう応えるか。まずは立地から「住まい」のあり方を問うことであった。ここは地下鉄の駅にも近く、産業地区だったため銀行や郵便局、飲食店も多い。住むだけでなく、仕事場を兼ねたSOHOに適していると考えられた。

この敷地のポテンシャルはまだあった。敷地の前が公園なので、建物の高さを制限するルールがゆるいということ、そしてこの地区が準工業地域であるため日影制限が無いということである。そこから、高い天井高を持つのびのびと海に開けた空間をつくることができると考えた。

テルツェットはイタリア語で三部合奏を意味する。その名の通り、この建物は三層構造になっている。低層部には、天井高3.6mを生かしたロフトをもつ2つのタイプの住戸がある。港が見渡せるバスルームが楽しめるものと、シャワーブースのみでガランとした空間をもつもので、いずれも眠る場所をロフトに確保することでSOHOとして使いやすくした。中層部のメゾネットも2つのタイプをデザインした。どちらも上階にベッドルーム、下階にリビングを持ち、港に開けた高さ約5mの大きな吹抜けを楽しむ空間だが、デッキテラスやバスルーム、キッチンの場所が2つのタイプで異なっているので、その空間の広がりはそれぞれ全く違う印象を与える。最上階のペントハウスは、この建物の最上部にひっそりと置かれた、特別なガラスのボックスである。デッキテラスと一体になって360度水平に広がる空間からは、福岡の街並みを遠くまで眺めることができる。

2004年に完成して以来、常に空室待ちが絶えない建物となった。住み手に聞いてみると、ここでは常にさまざまな光の動きを楽しめるという。都市高速を走る車のライト、夜にうごめく漁船の光、早朝に動き出す魚市場の照明。

1階のデザインで試みたことがある。この敷地は後ろにも道路が走っているが、どちらの道路境界にも、また隣地境界にも閉鎖的な塀をつくらないことにした。特に道路境界部分はとてもオープンにして車のためのチェーンを最低限取り付けるにとどめた。そのため近隣の人が、この敷地内をしばしば勝手に通り抜けている。また夜間には、明るい駐車場で人が待ち合わせしていることもある。風通しのよい空間のほうが、防犯上も安全なのではないかと考えている。

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