鳥越の住宅

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2013

建主はご夫婦と犬。都心の利便性のよい場所での生活を第一目標に、見つかったのは御神輿で有名な台東区鳥越神社から近く、おかず横町という小さいながら活気ある商店街から、路地をふたつほど入ったところにある9坪ほどの敷地であった。ご自身のルーツにも近く、知り合いがいることも決定の根拠となった様子である。周囲は戦災を免れて残った木造2・3階建ての小住宅の街並みに、昭和中期の小規模ビルが混在している。それらの多くが、開放的な建具で街との距離を調整し、窓先や屋上に限られた光を享受するベランダが載っかっている。こじんまりとしながらも、だからこそ独特の居心地のよさがある。

建主からは、写真撮影にもたえるほどの自然光の入る環境、趣味の家具づくりのスペース(いざというときの車も入れられる)を要望された。商業地域・防火地域ということもあり、耐火構造のフレームをつくる。敷地面積から、二×四間強の床を重箱状に重ね、路地に開き、しっかりとしたトップライトをつける。気持ちよい路地に1階を全開放する。ほぼ同幅で、あたかも路地の延長のような1階へ入り、手の届くほどの天井高(2,100mm)に抑えられた二層の空間を通り、一転、天井の高い3階(4,800mm)へ至る。燦々と自然光が降り注ぐ外部のような空間である。そして、空の近くにぐるりとロフトを設ける。1階での街との距離感、連続性、3階ロフトのベランダのような開放感。周辺の住宅のもつ街との距離の取り方や佇まいと同質のものだ。路地からトップライトへ至る道中には様々な居場所を設ける。季節や時間、街との距離感など状況に応じて、家の中を移動しながら住まうようなイメージをしている。

建主は、近所で見つけてきた現場用足場板を床の仕上げに使用することも許容してくれたのだが、仮に倉庫でも廃屋でも、日曜大工でちょっと手を加えて、気に入った家具や照明などを設えて、どんなところでも上手に気持ちよく住まうことのできる方だと思う。そんな建主が住まうための、古きよき街の文脈に差し込まれた、身体的なスケールのスケルトンユニットである。

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