写真 © 淺川敏
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カレ スピラル

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2003

4つの吹き抜けが建物内部の隅々にまで光と風を導く集合住宅。

日本の集合住宅には、次のような特徴がある。エントランスホールを抜けエレベーターに乗り、行き先階で降りると、共用廊下は再び外部となっていて、風雨にさらされながら住戸にたどり着く経路が、その一つである。また一般的な住戸の構成として、個室を3つ以上もつ住戸の多くが、外部の共用廊下側にその個室のいくつかを配置せざるを得ず、それらは共用廊下側の窓から換気採光をしている。その構造もまた特徴といえる。かつては路地が生活空間の一部であった日本でも、現代では社会や隣人との接点が異なってきているため、それらの窓は防犯用の柵がつけられ、プライバシーを守るためカーテンも開けられない窓になっているのが実情である。

14階建のこの集合住宅カレ スピラルには、4つの吹抜けが挿入されている。それは住居を、「吹きさらしの屋外の共用廊下と、そこに面したプライバシーの無い住居の窓」という環境から開放するためであった。 4つの吹抜けはそれぞれ異なる形をしている。建物中をまっすぐ降りていくもの、外壁を巻き込んだようにしてできたもの、建物内部を降りていき最下階で折れて外部に繋がるもの、そして折れ曲がりながら建物内部から外部へ移動しつつ、縦に全層を貫くものの4つである。これら4つの吹抜けの周りに、103戸の住戸が配置されている。形を変えていく吹抜けを取り巻く住戸のプランは、44タイプに及んだ。

これらの吹抜けはこの建物にとって、目に見えないインフラのようなものだ。これを『光風路』と名づけた。ある住戸は光風路から光を取り入れ、またある住戸は光と風をとりこみ、また吹抜けの底になる部分はテラスとして住戸の一部となる。また共用廊下も、光風路を通して採光や換気を行っている。光風路を通してそのまわりの空間が呼吸をしているのである。光風路はガラスブロック、ガラス、パンチングメタル、不透明ガラスで囲まれているが、それらの材料が、プライバシー確保や換気だけを必要としているかなど、それぞれの空間と光風路との関わり方を表わしている。また夜には、それぞれの住戸での人々の暮らしを、光風路は灯火のように照らし出す。吹抜けは大樹の幹のように、住戸はそこに連なる枝葉のように、集まり住む「集合住宅」を構成している。そして、隣人の声、気配、室内からの光といった微妙な事象が、光風路を通して伝えられ、住み手の記憶の中に積み重ねられていくと考えている。

44のタイプには、可動パーティションで自由に空間を仕切れるもの、約5mの天井高にロフトを付けたものなど、多様な取り組みも盛り込まれている。奥行きを広く取ったバルコニーに、内部の部屋が突き出した書斎スペースを持つ住戸もその一つである。その外壁側には濃紺のタイルが貼られ、その住戸の特徴が外から窺える。様々な住空間が光風路をとりまく構成が、建物の外部ににじみ出ているのである。

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