Foto © Ryota Atarashi
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VALLEY

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Sede
静岡県, Japan
Anno
2011

新しい地形

途中二度程クランクした、南北に50m、幅4〜5m程の細長い敷地。県庁所在地でもある地方都市の中心部に位置していて、周囲は高容積な防火地域であることから、中高層の鉄筋コンクリート造の建築物がひしめき合っている。背の高いマンションに挟まれた敷地はまるで深山の谷筋のようであった。

僕たちが試み たのは既存都市をランドスケープとして認め、その地勢的特性を建築によって強め、実現する環境への「質的効果」へと転換することであった。
採用したデザイン上の操作は単純である。高・中・低と異なる高さを持つ3筋のタフな鉄筋コンクリート造の壁体を、敷地の谷あいとしての属性を強め、なおか つ永続的に居住に適した地形となるように、変形した地型(チガタ)に沿って、互いに貫入しあうように配置した。騒音や視線から暮らしの領域を守り、上空か らの限られた光を大きく受けとる「新しい地形」としての半永続的な構造物である。

この操作によって生まれた3つの南北に長い空隙は、内面を白左官で仕上げ区画されることで空間化され、真中の空間を薄く水を張った光庭、その両側の空間を 居室とした。しかし、構成上、これらの空間は完結せず、その端部において「ほつれ」ている。この「ほつれ」によって、3つの実空間に跨がるようにこれらを リエゾンする2つの虚空間が発生し、この知覚上の広がりが敷地の特性上生まれてしまう実空間の幅の狭さを解決している。また、境界を跨ぎながら重複しあう 空間は谷筋を分け入るような、シークエンスの多様な展開を実現することになった。

さらに空間端部の「ほつれ」は、仕上げの裏側のコンクリートの量塊という強い「物性」を「空間」に介入させる。この「物性」を中心としてコンタ状に広がる 「場所」が「空間」にオーバーレイすることになり、ニュートラルな空間だけでは生まれない機能を誘導する環境の「偏り」や、居住者の安心や愛着といった心 理的な定位をもたらすことになるだろう。「ほつれ」は敷地や建築の内/外境界に適度な撹拌を起こし、空気や気配の交換を発生させてもいる。都市に対して自閉症的に内に閉じないおおらかな建築のあり方もまたこの「ほつれ」によるものだ。

竣工から一月程経って、撮影のために朝からお邪魔していたら、中庭の水面に野鳥が水浴びに来ていた。鳥から見れば、人工物である建築も、その辺の岩山や谷川と変わりないのだろう。ただ、そこが良い場所かどうか、ということが重要なのだ。それは、同じく生 き物である人にとっても同様に大切なことである。本質を人間の認識に置く「空間」は文化の変遷によってその意味を変えてしまうかもしれないが、良き「場 所」は生命体である我々の身体が変わらない限り、時間をこえていく普遍性を持っている。僕たちが実現したかったのは空間であるのと同時に、そのような「生 活をアフォードする場所」としての、「新しい都市の地形」なのだと、このとき気がついた。

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